【book】『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件:なぜ美しい羽は狙われたのか』


 

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『大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件:なぜ美しい羽は狙われたのか』
 カーク・ウォレス・ジョンソン(著)、矢野 真千子(翻訳)
 化学同人社 (2019/8/7)

 

大英自然史博物館から約300羽の鳥の標本が消えた。19世紀なかばに英国の探検家・自然主義者Alfred Russel Wallaceにより集められた貴重な標本も含まれており、その価値は百万ドル以上といわれる。

 

いったい誰が何のためにそんな大量の鳥の標本を持ち出したのか。

2009年6月に起きた盗難事件の真相に迫る犯罪ルポルタージュ

 

 

2009年6月、ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで勉強していた20歳のアメリカのフルート奏者であるエドウィン・リストは、ロンドン近郊のトリングにある大英自然史博物館の窓を壊して中に忍び込み19世紀半ばに伝説の自然主義者 Alfred Russel Wallaceによって収集された標本を含む299の熱帯の鳥の保存された標本をトランクに詰めて持ち出した。全ては、世にも美しい羽を持つ鳥だった。自身も毛針作りをするリストは、彼の音楽的なキャリアをサポートするのに十分な現金を集めることを望み、鳥の贅沢な色の羽を高い価格で仲間の愛好家に売却して資金を得るつもりだった。

 

リストは剥製からむしりとった美しい羽をeBayなどで売却しており、インターネットに多くの足跡を残していたにも関わらず警察は彼に目をつけることはなかった。

 

事件から13ヶ月(507日)経過したある日、徐々に大胆になっていたリストは不注意な売却を行なったことから、とうとう逮捕されたのだが、盗難の動機や精神状態テストの結果アスペルガー症候群だと認定され、執行猶予付きの刑しか課されなかった。

 

逮捕されたリストのアパートには、博物館が盗まれたと主張する299点よりだいぶ少ない数の標本しか残っていなかったが、売却済みと思われる数を考慮しても行方不明の標本が100点ほどありそうだと思われた。

 

犯罪の背景を探る筆者がが行きついた先は、希少な羽で毛針を制作する愛好家たちの世界だった。これらの愛好家はフライ・フィッシングに用いられるフライ(毛針)をエキゾティックな鳥の羽でつくることに情熱をかけており、そのために必要な羽の入手には手段を選ばなかったようだ。しかし、彼らのコミュニティーは結束が硬く、羽の入手先については多くが口をつぐみ真相はわからず、羽や標本を取り返すことは困難を極めた。

 

 

世にも奇妙な事件のルポルタージュは面白く(興味深く)読んだが、博物館の管理体制やリスト(犯人)についての扱いなど、読後はもやもやした感覚が残った。

  

 

本書は、ノン・フィクションであると同時に、欲、鳥類の滅亡の可能性のある破壊行為、欺き、ほかの様々な社会的な要素が盛り込まれていて、読み手により捉え方も異なるだろう。これらのことを考えてみるのも多様性の見方という点でおもしろい。以下は、本書で著者が読者に向けて疑問を投げかけていると思われる点の一例。

 

 ・ リストは単独での犯行と主張したが共犯者がいたのではないだろうか。
しかし毛針作り社会は結束が強く、誰一人としてこの事件のことについて口にするものはいなかった。

 ・ リストが持ち出した標本は本当に299点だったのだろうか。博物館では実は棚卸しはなされておらず、もしかすると、何年にもわたり誰かが少しずつ持ち出していたか、或いは、研究で借り出して戻すのを失念したりということがあったのかどうかは検証の方法がない。

 ・  大量の標本(死んでいる鳥)からむしった羽を毛針作り社会に放出したということは、その分、生きた鳥の密猟が減ったという考え方もできる。

 ・ リストはアスペルガー症候群を偽装していたのではないか。1人の医師によるテストで認証されたが、その後のリストの行動を見る限りアスペルガー症候群の特徴は認識されていないという意見がある。

 

  

原題は「The Feather Thief」。日本題は長すぎるので原題のまま「羽泥棒」ではいけなかったのだろうか。

 

 


 

Health Data:  (10/28/19)

  • Fitness: 6,239 steps, 3.5 km, 3 floors, Pushups 50, Spin 0 min.
  • Body: Weight 45.1 kg, Body Fat 20.8 %、BMI 18.19
  • Vitals 106/74/65