ブルース・ギターを弾いて15年


 

過去ログで自分としては良い感じだと思ったものの再掲載。

会社勤めだった頃、某映画館の前での出来事で実話。

 


 

「ここって、よく上映時間が違っているんですよね」

会社の帰りに家の近くの映画館で、上映時間スケジュールをチェックしていたら、なにか話しかけくる人がいる。 深めに被った帽子の両脇から出た、ふわふわとカールした茶色い髪が肩くらいにまでかかり、帽子と同じ感じのハーフコートを着たその人は、結構寒そうにしていた。 映画の始まる時間が、新聞に出ていた時間とちがうので1時間以上待っているのだそうだ。

「そうなんですよね。あと、前の日に確認しても日によってタイムスケジュールが変わったりね」

実際に、そこの映画館の上映時間スケジュールときたら結構な気ままさで、わたしも、何回か無駄足をしたものだった。 ただ、わたしの場合は家が近いので、時間が違ったら一旦帰宅して出直すのだがこの人は電車に乗ってやってきたとの事でそうも行かない。 彼女は、ひとなつっこい人で、いろいろ話しかけてくる。

「今、仕事の帰りですか? 会社?」
「そうです」
「どんな会社?」
「金融関係で・・・」
「良いなぁ。」
「良くないですよ。宮仕えは辛いですよ。」
「わたし、ブルース・ギター弾いているんです」(いきなり)
「へー、素晴らしいですね。才能があると自由業が出来て良いですね」

はなしのはこびが面白くて、ついハナシに乗る。

「でも、会社勤めに憧れてるんです」
「そうですか?会社員なんて自由時間の切り売りみたいですけどね」
「どうやったら金融関係の会社に入れるのですか?」
「え、どうやってって、Personnel Agencyに行くと、 面接とかのアレンジしてくれますよ」
「なるほど」
「コンピュータとか出来ますか?」
「なんとか」
「もしバイリンガルならすぐにみつかると思うけど」
「でも、面接の時に過去の経験とか聞かれるでしょうね」
「それは、やっぱりそうですね」
「ブルース・ギターを15年弾いています、って言って 雇ってもらえるでしょうか・・・」

 

いや、じつに楽しい方でした。もっとお話したかったのだが、用事があったので切り上げざるを得なかったのがいまだに残念でならない。 せめて電話番号でも聞いておくのだった。浮世離れした天然ボケはかなりいけてたのだ。
来週、ダウンタウンにある「シカゴ・ブルース」という店でのセッションするそうだけれど、素のノリがいけてる演奏なんじゃないかと思うのだった。

 

 991022